「漢委奴国王」という言葉を覚えてらっしゃいますか?昔小学校時代に習った記憶のある方も少なくはないでしょう。福岡の北、玄界灘に浮かぶ「志賀島」。この島から出土した金印が「漢委奴国王」です。その志賀島は日本の古代の歴史には欠かせない要所であります。
この島におよそ三世紀頃から鎮座するのが「志賀海神社」。「海神の総本社」「龍の都」と称えられ、玄界灘に臨む海上交通の要衝である博多湾の総鎮守として信仰されています。ご祭神は伊邪那岐命(いざなぎのみこと)の禊祓によってご出生された綿津見三神です。
古代に多くの足跡を遺す神社ですが、16世紀末には豊臣秀吉からも寄進を受けています。この曲はその前後に恐らく作られたと推察できます。この能の前シテである阿曇知家は当時の宮司であり、同じく前ツレとして登場する矢田部知長は権宮司、宮本知義は禰宜であることから、この三人が作者と考えても無理はないでしょう。
ただし現在神社にはこの曲の上演記録や能としての型附は残っておらず、謡曲のみが社人さんによって謳い継がれていました。近年になり、神社は幾度と「能」としての「わたつみ」復活を試みてこられましたが、なかなか成就せず、私がおよそ十年ほど前に御縁を頂戴し、すべての環境が整った結果、四年越しで復曲することができました。2017年9月17日、志賀海神社本殿にて舞囃子として奉納、翌18日には大濠公園能楽堂にて初上演致しました。翌年には私自身の催しにて京都初上演、そしてこの度東京での初上演となりました。
見どころを随所にちりばめたスペクタクル溢れる曲です。この「わたつみ日記」では復曲に関する裏話や、神社のこと、島のことなど、4月17日の東京公演に向けて興味を持って頂く記事を余すことなくお届けする予定です。是非引き続きご愛読くださいませ。
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