さて復曲能『わたつみ』の登場人物を整理してみましょう。前シテが阿曇知家、前ツレが矢田部知長と宮本知義という神職の三人で、後シテが底津綿津見神、後ツレが表津綿津見神と仲津綿津見神のいわゆる綿津見三神です。でも実は原曲の後シテは阿曇磯良でツレは登場しません。
何故この部分を変えたかと申しますと、
①曲名が「わたつみ」であるために、綿津見三神を出す必要があった。
②能の常套手段として、前のキャラクターは後の化身や仮の姿であることが多いため、前に三人出る場合は後もそのまま三人のほうがイメージしやすかった。
③中入前の言葉に、「これは真は三社の神 汝が為に現はると 名のりもあへず御笠山の しげみに入らせ給ひけり」とあり、暗に三神の登場を予言している。
という点です。
原曲は、海人族の先祖である磯良と御祭神である綿津見三神を崇め奉ることが重なって少し混乱しています。神社にとってのその観点は充分に理解できるところでありますが、能という芝居上は多少整理する必要がありました。なので前述の三点に重きを置いた場合、後段のキャラクターを綿津見三神とするほうが素直だったのです。
ただし今回幾度と謡本を読み直してみたり、また磯良という存在の大きさも再認識したりするうちに、原曲を生かした演出も作りたいなと思うようになりました。海人族にとって磯良は我々の想像を遙かに超える存在なのです。近いうちに後シテを阿曇磯良とした『磯良之式』を制作して上演したいなと思っております。
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